20年前不登校だった私が体験談を語るブログ

「行きたくない」を「生きたくない」に置き換えて

『瑕疵借り』松岡圭祐 読書感想文

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松岡圭祐氏といえば『千里眼』や『催眠』を読んで以来、およそ20年ぶりに手に取った


瑕疵(かし)とは、不動産業界で言うところの物件の欠陥の事であり、いわゆる事故物件、訳あり物件の事を指す


土壌汚染や近辺に騒音問題がある物件は「環境的瑕疵」

火事や孤独死や殺人、自殺等が発生し、目には見えないけれど心理的に忌避されるものを「心理的瑕疵」と称する

 

不動産会社は瑕疵物件の入居希望者に対して事前にその旨を伝えなければならないという「告知義務」があり、それ故に住みたがらない人が多いため賃貸料を下げなければならない


ただ、人為的に起きた心理的瑕疵の場合は一度人が住み、更に瑕疵状態でなくなる根拠が示されれば法的な告知義務は無くなるそうである


そこで登場するのが、その告知義務をなくすために訳あり物件に住む事を生業としている「瑕疵借り」

実在するのかは不明

単に住むだけでなく、瑕疵の原因を究明し問題解決にもあたる


物語は、意図せず物件を瑕疵に認定されてしまった元居住者と、その周囲の人々を描いた4部作


自殺・孤独死・不自然死と、ひと言で済ませると「死」の一文字が重く物騒に感じる事柄も、故人の背景に目を向けると彼らの「生き様」が垣間見えてくるもの


どの人も困難を抱えながら懸命に生きた過去が浮かび上がり、そう感じると死にばかり着目する必要は無いのだなという考えに至る

生を目の当たりにすると死は霞むものなのかもしれない

 

それに、これは個人的な考えだけれど孤独死は特別不幸な事ではない、誰にだって起こりうる事なのではないか

結婚して子宝に恵まれたとしても、子どもが独立して世帯を持ち、その後配偶者と死別もしくは離別した場合、二世帯住宅でもない場合は単独世帯になり、突然死したら「孤独死」扱いになる、何ら不自然な事ではない


書籍の中で明言こそされていないものの、事故物件のデータベースとして有名な大島てるさんのサイトの事が出てきたり、福島原発作業員に対する世間の偏見について語られていたりと、現代的な事柄が取り入れられており、興味深く読み進められました。